BLですか?いいえ『炎の蜃気楼』です

昨日7/23は仰木高耶の誕生日だった。
今年50歳の誕生日ということで、日本中のファンたちが彼の生誕を祝った。
そんな仰木高耶はコバルト文庫の人気シリーズ『炎の蜃気楼ミラージュ』の主人公だ。CVは関俊彦
『炎の蜃気楼』第一巻
『炎の蜃気楼ミラージュ』は桑原水菜により1990年からコバルト文庫より刊行されたライトノベルシリーズ。

戦国時代に敗れ去った戦国武将が怨霊となって蘇り、今なお戦い続ける≪闇戦国
仰木高耶は長野県松本市にある城北高校に通う高校二年生。ある日、親友の成田譲が武田信玄に憑依されたことから端を発した事件で己の正体を知り、数奇な運命に翻弄されていく。
高耶の前に現れた黒スーツの男・直江信綱は、高耶の正体が戦国時代「御館の乱」にて上杉景勝に敗れた、上杉謙信の養子・上杉景虎であり、自分たちは軍神・上杉謙信の命を受けて甦り、400年ものあいだ生者の肉体を奪いながら生き続ける≪換生者≫だと明かした。
彼らは400年間、謙信の命により生き人達に仇なす怨霊たちを冥界へと≪調伏≫する為、換生を続けてきた冥界上杉軍・上杉夜叉衆であり、景虎はその夜叉衆の総大将なのだという。
突如突き付けられた己の宿命に戸惑いながらも、高耶は譲を助けるため怨霊たちとの戦いに身を委ねていくのであった――。そしてそれは宿敵・織田信長との戦いへと続いていく。

ジャンルは戦国サイキックホラーアクション
本編は全40巻+番外編全7巻の大作であり、アニメ化にOVA、ラジオドラマにドラマCD、イメージアルバムにコミカライズ、さらに本編の前日譚である昭和編は舞台化もしている等、メディアミックスは多岐にわたる。
当時の人気は凄まじく、もはや一大宗教と言っても過言ではない程。ファンは「ミラジェンヌ」と呼ばれ、作中に登場した日本全国の聖地を巡礼する「ミラージュ紀行ツアー」は一大ムーブメントを引き起こし、特に主人公たちと縁深い山形県米沢市で毎年開催される「米沢上杉まつり」が4巻のあとがきで紹介されると、突如まつりに若い女性が急増したという。そんな女性たちに地元の人たちが来た理由を聞いても、彼女たちは口を割ることは一切無かったという伝説まである。著者は「今思うと『炎の蜃気楼』の読者には秘密結社的な何かがあったのかもしれません」と90年代を振り返ったほどであった。

TVアニメ・OVAのキービジュアル

さて、では一体『炎の蜃気楼ミラージュ』の何がそこまで彼女たちをひきつけたのか。
それはズバリ400年に渡る主従の愛憎劇だろう。
この物語は仰木高耶(上杉景虎)の他にもう一人、主人公と呼べる人物が存在する。
彼こそ直江信綱(CV:速水奨)。景虎の後見人であり従者である彼と景虎の、400年に渡る愛憎劇がこの作品の主軸なのである。
序盤こそ純粋な戦国サイキックホラーアクションだった本作。(まぁ直江は当初から少し怪しいっちゃ怪しいが)その本性が露わになるのは『―断章―最愛のあなたへ

こちら5巻と6巻の間に発売された断章で番外編ではあるのだが、なんとれっきとした本編(5.5巻)である。というかこれ読まないと6巻でいきなり「え?どうしたの?なんかあった?」となってしまうほど、物語のカラーがここで一気に逆転するし、作中屈指の大事件が起こる(通称:狂犬事件)。ここから物語の主軸は怨霊調伏から400年にも及ぶ景虎と直江のどろっどろの愛憎劇へとシフトしていく。
なんとこの作品、5.5巻から急にBL作品になってしまったのである。発刊しているコバルト文庫はなんと少女向けレーベルでありながら、R-18展開へと突入していった当時としては異色の作品。
しかし性別すら超越した彼らの愛憎劇は最早BLに収まるものではなく、「」なんて生ぬるい言葉ですら表現できない。お互いの全てをさらけ出し、もがき苦しみ、傷つけあいながら、それでも二人は自分たちの『最上』の在り方を求め続けていきます。
人生の価値観を変えるには十分過ぎるほどの作品。腐女子の聖典バイブル。腐女子ならば死ぬまでに一度は読んで欲しい作品です。それこそお遍路みたいなものですよ。

400年前、上杉謙信亡き後、後継者争いで上杉景勝に敗れ「御館の乱」で非業の死を遂げた上杉景虎。直江は景勝側についており敵対関係にあった。彼らは元敵同士でありながら、謙信の命により主従関係となる。生前敗れた景虎は敗者でありながらも主人として、そして勝者側であった直江が従者という「勝者と敗者」の逆転が、彼らの関係を拗らせていく。

本作のテーマは「アマデウス」のモーツァルトとサリエリや「駆込み訴え」のキリストとユダがモチーフと言えば、ピンと来る人も多いだろうか。
圧倒的なカリスマで相手を屈服させる景虎と、プライドが無駄に高く素直に屈服出来ないなんなら屈服させたい直江という、面倒臭いことこの上ない関係は、同じく上杉夜叉衆の一人であり彼らを400年間見続けてきた千秋修平曰く「SM主従」(精神的M肉体的S×精神的S肉体的Mというのがさらに面倒くさい)
片方が離れていこうとすると、束縛系彼氏の様にもう片方が相手を何がなんでも離さない。結局似た者同士の痴話喧嘩なのだが、景虎は過去のトラウマから、そして直江はそのプライドの高さから実を結ぶことはなく、結果本編より30年前に起こった事件が関係に決定的な亀裂を入れてしまった。
結果景虎は直江との拗れきった関係を一からやり直す為自ら記憶を封じ、仰木高耶の体に換生するのであった。

記憶を失った高耶と直江の関係は保護者兼ボディーガード×元ヤンツンデレ男子高校生という、割と健全な関係であった(まあ年の差11歳で相手はDKという、ちょっと直江の社会的立場が怪しい関係ではあるが)。
しかし景虎と直江の場合は下僕兼忠犬時々狂犬×完全無欠の女王様というアレすぎる関係に変化する。
そんな彼らは過酷な運命に翻弄され、数々の苦難を乗り越えながら、お互いの『最上』のあり方への道を模索していく――。

ただのBL作品という一つのジャンルに収めるには、あまりにも壮大なストーリーと予想を超える展開、歴史上の名だたる戦国武将や無名の雑兵一人一人の悩みや葛藤、そして決着を描く大河ドラマでもある。さらに全国津々浦々の歴史的寺社や史跡、観光名所、そして戦国武将が出てくる。歴女聖地巡礼の先駆けとなった作品である。
そんな熱い物語と並行して、直江と高耶の超絶面倒くさい主従の愛憎劇が織り交ぜられていく。
本作、5.5巻以降からはとにかく話が重い。高耶が景虎の記憶を取り戻していくにつれ、その重さに拍車がかかっていく。その容赦の無い鬼畜展開の連続は古のミラジェンヌ達の精神力を鍛えていったとかなんとか(割と90年代の作品ってクソ重鬱展開な作品多いよね。世紀末だったからかな?)
そんなクソ重展開でも読ませる文章力の高さは流石の一言。私がミラージュに出会ったのは高校生の頃でしたが、読み始めてからは睡眠時間を削り、登下校のバスの中でも読み続け、そして授業中まで読み続け授業中必死に涙をこらえるほどでした(ちゃんと勉強せえ)
やはり直江と高耶の展開も気になるのですが、それ以外の沢山の登場人物たちもとっても魅力的なのがミラージュのポイント。
ここで個人的作中最推しキャラを一人ご紹介したいと思います。

千秋修平

CV:松本保典
上杉夜叉衆の一人であり、生前の名は安田長秀
2巻にて高耶の同級生で『親友』として突如登場する。しかしそれは得意の催眠暗示によるもので、実際の年齢は19歳。誰が呼んだか、ついたあだ名は「城北高校の座敷童」
飄々とした性格で一見軽薄そうに見えるが、その実義理堅く世話焼きな性分。30年前の事件で嫌気がさし、上杉夜叉衆の使命を降りたくせに、なんやかんや結局400年付き合った仲間たちを見捨てられず、ズルズルと共に戦い続けている。
傍迷惑なSM主従に400年間振り回されてきた被害者であり、口では愛想が尽きたと言いながらも結局彼らの為に行動してしまう良い奴。良い奴過ぎて彼の負担が大きすぎる。火輪とかちー様いなかったらと思うと…!高耶さんと直江はもっと彼を労ってあげて欲しい。それどころやなかったけど…。
作中何かと女キャラとイイ感じになるが、結局根が誠実なため彼女らの為を思い身を引いたり、悲しい結末になることが多い。
ホント良い人過ぎて損をするタイプであり、直江と高耶に振り回される彼に感情移入してしまうほど。(というか直江と高耶に全く感情移入が出来ないので自然と感情移入しやすい千秋の方にいってるのかも。あいつら複雑すぎんねん)
ちー様が活躍する話大好き。その分ロスも凄かった。

最後に千秋と高耶の関係がよく分かるドラマCDをどうぞ。

YouTube漁ってたら、なんと公式が過去の特典ドラマCDを上げてくれてた。
本編のシリアスさを投げ捨てたギャグストーリー。こういう時の直江が一番輝いててそして気持ち悪い

とまぁ、こんな感じで作中の登場人物たちは直江と高耶以外にも粒ぞろい。
特に彼らと共に400年間換生しながら戦ってきた上杉夜叉衆の面々(安田長秀・柿崎晴家・色部勝長に直江と景虎を含めた5名のみの組織)は、最初こそ御館の乱での派閥問題でギクシャクしていたが、時が経つにつれ運命共同体として家族とも親友とも違う特殊な関係で結びつきが強くなっていった。
そこら辺の夜叉衆達の400年間を描いた外伝作品も出ており、夜叉衆結成を描いた邂逅編真白き残響』、舞台を幕末に移した『幕末編』、そして本編30年前の事件を描く『昭和編』がある。
特に最新作であり、シリーズの完結編でもある昭和編は先にも述べた通り舞台化している。
クオリティ超高いしビジュアル完璧だし、特にあの直江とかいうクッソめんどくさい役に苦しみながらも立ち向かってくれた荒牧くんには感謝しかない。あと大分きわどいシーンとかも演じてくれてありがとう。


佃井皆美さん演じるマリーがカッコ可愛すぎてマジで推せる。
あとまっすんが信長だよ!?朽木の時のまっすんの演技良すぎて辛かった…。とみしょーの景虎様も最高…。

さてここからは筆者と『炎の蜃気楼』の思い出について書いていこう。
ミラージュとの出会いは多分キッズステーションだった気がする。実は『炎の蜃気楼』放送局はなんとキッズステーション。あの泥沼愛憎劇をなんとキッズステーションで放送するという悪魔の所業。お子様が見たらどーする!
まあともかく、私はアニメからミラージュに入ったのですが、まあ高校生の頃にはすっかり腐りきっていた私は一気に虜になりました。(そういえば当時高2だったので、高耶さんと同い年だったんだな…)アニメは原作9巻までしかアニメ化されておらず、続きが気になってしかたない私は原作に手を伸ばします。
ところで『炎の蜃気楼』。冒頭でも述べた通り、90年代とんでもないカルト的人気を誇っておりました。世界中にいたミラジェンヌの勢いはすさまじく、彼女たちは『炎の蜃気楼』布教にも余念がありませんでした。その結果なのかなんなのか、実は『炎の蜃気楼』、図書館に置いてあるのである
少なくとも私の住んでた町の図書館には置いてあった。皆様も近くの図書館を探してみて欲しい。もしかしたら、あなたの町にも……。しかしうちの町の図書館には置いてあったのは19巻まで!!19巻まで読んだ私は悲嘆に暮れた。すごく良いところで終わったのである。え、ここでお預けとか人の心無いんか?と涙したほど。次の行動は早かった。私はネット上のあらゆる古本サイトを使い、それでも見つからなかったものはamazonで購入した。バイト代を注ぎ込み、そして私の家に『炎の蜃気楼』全巻がついに揃ったのである。
待ちに待った20巻。ドキドキしながら読んだそれは、図書館に置いてなかったのも納得の内容であった――。(20巻が2部最終巻なのだが、これは図書館置けないよなあ……w内容は察して欲しいのだが、まあ言ってしまえば1巻ほぼ丸っとずっとヤってる)
3部からも怒涛の展開が続き、あまりの鬼畜展開に精神をすり減らしながらも、彼らの『最上』の在り方を見届けるため睡眠時間を削って読み続け、最終巻を読み終えたのはなんと、修学旅行のバスの中でした。バスの中で大号泣する女。周りの友達にめっちゃ心配された。多分男子はドン引きしてたと思う。ホント申し訳なかった。
ちなみに修学旅行先は九州で、なんとミラージュ聖地の一つであり、2部ラスト決戦の地・阿蘇山に登ることが出来ました。阿蘇山の最終決戦は壮絶であり、そしてそのラストは直高屈指の名シーンの一つ!あの時の直江と高耶に思いを馳せながら見る火口の美しいエメラルドグリーンは、今でも鮮明に覚えています。やっぱ聖地巡礼って良いなあ。

そんな『炎の蜃気楼』について語ってきましたが、如何でしたでしょうか。
正直うまくまとめられてないし、魅力をすべて伝えきれていないと思いますが、もしこれを読んで少しでも気になってくださったなら、ぜひとも触れて欲しい作品です。
とりあえず町の図書館行ってみてください。ワンチャンあるかもしれません。アニメも探せば見れるかも知れないので、そこから入るのもアリ(ただ絵柄にクセあり)
あとただいまミステリーボニータでコミカライズ版『炎の蜃気楼R』が絶賛連載中!こちらは今原作の3巻を漫画化しています。
今なお愛され続ける『炎の蜃気楼』せひ触れてみてください。


我が家のお宝。映ってないけど初期コミカライズとか雑誌のコバルトも何冊かある。
同人誌が欲しい……。

参考サイト
Wikipediaー炎の蜃気楼
炎の蜃気楼 – アニヲタWiki(仮) – atwiki(アットウィキ)
炎の蜃気楼 – ピクシブ百科事典
『炎の蜃気楼』が30年間、熱狂的に支持された理由とは? 特異なファンダムを生んだ“中毒性”に迫る

 

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