【馬×歌】春の歌

好きな歌がある。

「春の歌」という名前の歌だ。作詞・作曲草野正宗、スピッツが2005年1月12日にリリースした楽曲。

そしてこの曲と一緒に思い出す馬がいる。「スプリングソング」まさに春の歌という意味の名前を持つ馬だ。

偶然か、楽曲発表と同じ2005年生まれ。父サクラバクシンオー、母スプリングチケット(byトニービン)。生涯GIにこそ手は届かなかったものの、2010年京阪杯を制するなど父と同じマイル-スプリント路線で粘り強く活躍した。

これだけ言えばああ、GIに惜しくも手が届かなかった重賞馬か、悲しいが何頭もそういう子はいると思うかもしれない。彼自身の活躍だけではもしかしたら名前を知らしめるに至らなかったかもしれない、それは残念なことに事実だ。良血馬ではあるが重賞タイトルはひとつ、出走したGIはすべて着外。コアなファンはたくさんいただろうけども、万人にという感じじゃない。

だけど彼には華々しい活躍を遂げた妹がいる。カレンチャンだ。スプリングソングの名前はカレンチャンとともに兄妹として語られるところを見る機会がきっと多いだろう。

――競走馬がきょうだいで活躍できる例など実はそう多くない。重賞、GIに出られるだけ勝ち上がることが難しい中、ましてや同じタイトルを狙って相まみえることなど稀有なことなのだ。なにより馬という生き物にとってたった1年の違いでも競走生活の進退は変わってくる。ナリタブライアンがビワハヤヒデと対戦できなかったように必ずターフやダートの上で出会えるとは限らない。

そしてスプリングソングと2つ離れたカレンチャンもスプリント路線で頭角を現し始めたのだ。2010年スプリングソングが長い休養明けまるで妹に道を示すようにつかんだ重賞タイトルの傍らカレンチャンは着実に自己条件を駆けあがっていく。2011年上半期にかけての勢いは猛烈だ。フィリーズレビューで8着に敗れると2か月後当時OPの葵Sで2着、潮騒特別1着、伏見S3着、山城S1着。そして4月の阪神牝馬Sでとうとう重賞ウィナーとなる。

一方スプリングソングの2011年立ち上がりはあまり順調とは言えなかった。前年に取り戻した勢いはなくシルクロードS7着、阪急杯4着、高松宮記念7着。やや精彩を欠く中で立て直しのためか4月23日OPのオーストラリアトロフィーを次走に選ぶ。そこで人気にこそ応えられなかったがのちに重賞複数タイトルを得るパドトロワと差のない2着となった。妹が重賞ウィナーになり、とうとう秋のスプリンターズステークスでは対決か――そう噂も立ちはじめる頃。

5月8日、消化管の捻じれを起因とする疝痛である変位疝がもとで予後不良。スプリングソングは春の終りとともにこの世を去った。

対決は二度と叶わないものとなったがカレンチャンはここからさらに快進撃を見せる。函館スプリントS、キーンランドCと重賞を連勝。そしてスプリンターズステークスを迎えた。

2011年10月2日中山競馬場。春は修繕に努めた中山競馬場にふたたびGIファンファーレが響く。10のゼッケンをつけたカレンチャンは兄の背中も知る相棒池添謙一騎手を背に好スタートを決めて先行集団のうしろ、中団外目に待機。早くも3コーナーに差し掛かる頃に進出開始し4コーナー越えたあたりで先団を捉える。そして短い直線、上がり3ハロン33.8秒という鋭い切れ味で2番手以降を置き去りにして1と3/4馬身差をつけGIを制したのだった。2着は兄が最後に対決し2着に敗れたあのパドトロワだった。

 

この兄妹に、私は「春の歌」を重ねている。

重い足でぬかるむ道を来た トゲのある藪をかき分けてきた

2008年暮れから2009年決して順調ではなかったスプリングソング。

長いトンネルをくぐり抜けた時  見慣れない色に包まれていった

実はまだ始まったとこだった

2010年に重賞タイトルを手にしたものの快進撃とはならず、2011年持ち直しの兆しありながら短い生涯を閉じた彼をこの歌詞に思わずにはいられない。

春の歌 愛と希望より前に響く

聞こえるか?遠い空に映る君にも

カレンチャンは2012年春のスプリントGI高松宮記念を勝利している。牝馬によるスプリントGI秋春連覇は3頭めの偉業であるとともに結果的にこの年で現役を退いたカレンチャンにとって最後のGIタイトルとなった。

忘れかけた 本当は忘れたくない

君の名をなぞる

春の歌 愛も希望もつくりはじめる

遮るな 何処までも続くこの道を

オーナーも厩舎も違う兄妹に何かを見出すのはファン心の悪い部分かもしれない。それでも同じ鞍上を背に迎えて同じ路線を無事に走り切り、対決するはずだった舞台と春の舞台を勝ち取ったカレンチャンのおかげで私は後年になってからもスプリングソングを知ることができた。カレンチャンの活躍は彼女と陣営のものではあるが、それでも春をなぞってくれたおかげだったのだ。

だからこの曲を聴くとスプリングソングとカレンチャンを思い出す。

夜明けのような透き通った歌に彼らを重ねている。

スピッツ / 春の歌
30th single 「春の歌」発売日:2005年4月20日

『春の歌』作詞:草野正宗 作曲:草野正宗 編曲:スピッツ&亀田誠治

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