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比呂ころく
キーマスター暇つぶしにご利用ください
阿呆からす
ゲスト「ねえ、青い鳥は幸福の象徴じゃなかったの?ここにいれば僕たちは安泰に息を吸えるんじゃなかったの?」
何年前の話だろうか、僕がこの鳥の背に乗る旅路に加わったのは。少なくともそのころは彼の背は広大で、安心して身を任し雲の間を揺蕩っていられた。幾分もせず僕もすでに構築されていたいくつもの村に出入りするようになり、何もかもがある生活を楽しんでいた。地上の濃い過ぎる酸素では生きていけない者にとって、彼の背での暮らしはまさにしあわせだったのだ。
それが、どういうことだろう。気づけば数多くの住民に耐えられず、青い鳥は地に沈もうとしている。青い鳥は混乱の象徴となり、皆どうにかして上空にとどまろうと、息を吸える場所を探そうと必死だ。
僕はどうすればいい?今から気球でも作る?諦めて地上へ飛び降りる?それとも余命を数えながらこの鳥の旅路に最後まで付き合う?わからない、そもそも、こんなことを一人で決められる度胸もない。まだ住民がいそうな村に向かえば、だれか僕に道しるべをくれないか。秋安芸
ゲスト青い鳥は、かつて迫害されていた同胞が見つけた方舟だったらしい。
「方舟だった」と言いきれないのは、少なくとも僕や僕の周りの誰かじゃないから。
最初は飛んですらいなかったかもしれない。青くすらなかったかもしれない。
幾人かが乗り込んで拡張をするうち、青い鳥と呼ばれるようになった。
行き場のない者の集団が作ったそれは、同じく行き場のない者にとってとても居心地のいいものだった。少し足を踏み入れただけで気に入り、いついてしまった者もいる。
僕もいついてしまった人間のひとりだ。
しだいに人が人を呼び、人がAIを呼んだ。
そうして繁栄している最中、事件は起きた。【どこぞの富豪が青い鳥の所有権を買い取った】
青い鳥は富豪の招き入れた技術者により、大きな改造をされた。
「ジェットエンジンを付けよう」
「不要なパーツは破棄してしまおう」
「青い鳥は私のものだ!!!」そして、青い鳥の崩壊は始まった。
しだれ
ゲスト崩壊が始まってからは早かった。自由の象徴だった方舟では、段々家から出ることができなくなった。家から出られなければ、みんながいる広場には出られない。出られても、限られた区画の中の行き来のみ。
早々に家から出られなくなった僕は、朝になってその無惨になった広場を見て膝をついた。枝豆ぺんぎん
ゲスト毎日のようにカラフルな紙吹雪と風船が舞っていたあの広場が、今ではただのガラクタの山になっていた。美しく文様を成していたタイルも、清水をたたえていた噴水も、バラが咲き乱れていた花壇も、何もかも「そんなに綺麗だった?」とでも言われたかのように無様に壊されていた。
この方舟の上では多少の火事や諍い、スキャンダルは日常茶飯事だった。家々に残った銃創や焼け跡もまた風景の1部だと、そう思えるくらいには皆少し治安の悪いこの場所を愛していた。でも、こんなにも壊されては愛着もなにもあったものでは無い。
震える足を何とか動かして細い路地を走り回る。凍傷で叫ぶ人の声、家の扉をただただ叩く音、いつの間にか現れていた自動警備装置が歩く音、誰もいない大通りに向かって人を呼ぶ娼婦の声。
どうして、どうしてこうなってしまったんだろう。
人は、僕の他に人は、だれか僕を導いてくれる人は……走り回った足は知らぬ間に傷だらけになっていて、最早何故動いているのかも分からないほどにボロボロだった。このまま死ぬなんて、この方舟に何もせず、一人何となく死ぬなんて、それだけは嫌だと分かっているのに!
「どうしたらいいんだよ」
視界がぼやける。ぽたり、ぽたりとなにかが足元を濡らしていく。そのまま僕は座り込んでしまった。さんそ
ゲストふと1枚のチラシが風に吹かれてやって来た。どこかの誰かの別宅の写真と共に、自分はここにいると住所が書かれていた。チラシは薄汚れていたれけど、別宅はとてもお洒落で僕が行けるような場所ではなかった。
さゆ
ゲストふわり
鼻先に懐かしいようなそれでいてすこし泣きそうになる
そんな香りが漂ってきた。ひと
ゲストチラシは強く握られクシャクシャになってしまっている。
顔を空に向けきつく目をつぶり涙がこれ以上零れないようにするけど、ぽたりぽたり零れてしまう。
その時、様々な何かが舞う音が聞こえ目を開ける。チラシやポスター、チケット。
音が何か大きくなってくる。羽ばたいてる音だ驚いて立ち上がり飛んでくるものを待ち構えた。
「え?鳩!?」
そして鳩が先導したのか物凄い音と共に板が落ちてきた。
「う?うわぁあ!?掲示板!?」秋安芸
ゲスト「もう、危ないなぁ?!」
かろうじてひっくり返した板には、多くのメモ紙が貼られていた。『ここはもうだめだ、他に行く』
『まだここにいる』
『みんなどこに行く?』
『○○○○がいいらしいぞ』
『タイツって履き心地いいよね』
『元居た地に戻ろう』掲示板を見れば、なにか方針が見つかると思ったのに……
雪兎
ゲスト「もう、だめだ」
掲示板がガラガラと音を立てて地に落ちる。僕はその傍に膝と手を着いて、もう地面しか見えない。
はらはら、はら、幾枚も紙きれが降ってくる。そこにはさっき見たような、住所の書かれた紙。涙が落ちる都度はっきり見える住所は、見る度に全く違うところを指す。懐かしい誰かの筆跡が書いた、全く知らない住所を見つけた時、耐えきれなくなった。
「僕はどこに行けば、皆と、皆とまた、」
最後まで言う前に、喉に何か詰まって、酷く咳き込んだ。気がつけば酷く寒い。吹雪が所構わず吹き付けている。ようやっと溶けたはずの扉が、またいくつも、幾つも凍りつく。僕も凍えてしまいそうで、掲示板を盾にしながら、身を縮めるしかなかった。
かつて苦しかった時、皆との他愛ないお喋りが、なんとなく心を温めてくれた。その皆の姿が、今は散り散りになったきり。どこに行ったって、きっと誰かが居ない。
「どこに行けば、皆とまた、楽しいお喋りができるの」
苦しい。吹雪のせいで息ができない。
ここは、この鳥は、かつて、方舟だった。ここに来れば、自由に息が吸えた。幸せだった。
──それなのに。《この青い鳥の、乗客たちに告ぐ。》
舟の、誇りある姿すら、奪われてしまう。
鳥が沈む。優しい気持ちが込められた柔らかく青い羽が、象徴も特徴もない、無機質な記号に沈んでいく。「だれか……」
青い鳥の美しい翼が、カッターの刃のように細く冷たく変わっていく中で、どうにか、手を伸ばした。
手が、何かを掴んだような、気がした。
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