大騒動!「平沢進海外イベント・P-0」

はじめに

2007年6月下旬。

私は生まれて初めての海外旅行に向け、準備していた。

行先はタイのプーケット。三泊五日。目的は平沢進の海外イベント。今までも数度、開催されていたものに、私もようやく参戦することになったのだ。それこそ万障繰り合わせて、胸を高鳴らせながら申し込みをし、人生初、日本から外の世界へと飛んだ。念願だったのだ。

かなり過去のことで記憶がおぼろだが、あまりにユニークな旅路だったため、つらつらと書いて行こうと思う。

旅行……準備?

旅行と言えば、服、小物、キャリーケースなどなど色々と揃えたくなる。それも醍醐味のうちだ。が、平沢進が絡むと旅行準備も訳が分からなくなる。まずは特設の、訳の分からないサイトに行き、訳の分からない物語を読み、訳の分からない画像を確認する。万国点検隊のはじまりだ。

しかしこの、訳の分からない画像が、あまりに小さすぎて、どれだけ拡大しても、どんな顔立ちの人かなどの基本的な情報すら得られない。とても重要な役割だというのに。平沢のライブでもそうだが、リスナーはかけらもヒントをもらえない。

 持ち物として携帯できるFMラジオを持ってこい、と旅行案内にあった。あーなるほど、と私は家電量販店で良さげなのを購入した。かつてライブで、スピーカーを使用せず参加者のFMラジオから音を流したことがあるのだ。ソーラーレイという、これもなかなかに挑戦的なライブだったが、今回は割愛する。多分、またラジオからなにかしら聞けるのだろうと、とても楽しみで、だからこそ波乱万丈が約束された『万国点検隊 P-0(ピー・スーン)』への思いを、日が近づくにつれ募らせた。

空港にて

出国当日、空港では部屋に案内され、グッズを受け取ったり説明を受けたりした。総勢約百人。それなりの金額を払い、相応の休暇をとって、いざ参らん、と集まった同士たちだ。勝手に親近感を覚えた。メンバーだと分かるよう首から隊員用ネームプレートを下げ、意気揚々と旅立とうという時、隊を率いる団長が、「機内ではなにも起こりません」と言った……機内では?なにも?起こらない?とは、機内以外ならなにかが起こるということを改めて、この旅が普通でないことを思い知った瞬間だった。

敵はヒラサワ!

昼、スワンナプーム国際空港へと無事に到着した。プーケット行きへの乗り換えで、トランジットが約二時間。ここでのんびりできたかといえば……さにあらず。我々は、事前に何者かわからない方かへ、「持っている箱を隠せ」と告げる指令を受けていた。とても重要なことなので、必ず成し遂げろと。

けれど前述したとおり、相手が誰だかさっぱりわからない。女性なのか男性なのか。日本人なのか外国人なのか。日本語は通じるのか英語なのか。よもやタイ語での交流となるのか。手がかりのなく、我々は空港で途方にくれた訳だが、しかしこれも与えられた任務、こなせなかったら初っぱなからくじけてしまう。

広い敷地内を、静かに、しかし足早に、誰だ、何処だ、と隊員はそれぞれ散っていった。皆が他のお客さんに迷惑にならないよう、紳士的にふるまったが、内心では冷や汗をかいていた。どうやらその方が箱をむきだしのまま飛行機に搭乗したら、そこでもうタイムアップなのだ。いやが上にも焦る。いつしか、すれ違う隊員同士の合い言葉が、「敵は平沢!」になった。

結果としては、その人物が飛行機に乗るギリギリあたりで、隊員のひとりが箱を受け取り、任務は完了した。らしい。あとからそれを告げられた。みな、大喜びで称えあった。最初の難関はクリアしたということだ。

現地到着、したものの

ようやくプーケットに到着。なんて感傷にひたる間もなく、次の使命があった。いわく「正しい地図と、間違った地図がある」。つまり地図を手に入れろ、ということだ。しかも、どれがどう正しく、なにがなぜ間違っているか提示されていない。とにかく必要なんだな、と割り切るしかない。隊員は11班に別れており、ご迷惑にならないようにと、1班1セットで空港の観光地図を取った。

ついで、空港外で、持参したFMラジオの周波数合わせをスタッフさんとした。説明では、「0(ゼロ=スーン)」の表示が見えたら、FMラジオを聞け、平沢からメッセージされる(意訳)」とのこと。相変わらず、いつどこで0が掲げられるかなんて解説はない。極端に言えば寝るまでFMラジオを携帯してろ、と命じられたようなものだった。

「これが……これが万国点検隊……」誰かが呟き、私も心から同意し頷いた。

ホテル到着、そして衝撃

そうこうあり、バスに揺られること小一時間。ビーチ沿いのホテルはとても綺麗で、お洒落だった。ああ、海外に来たあな、とここで私はしみじみ思った。どうやらオーナーさんが平沢のファンらしく、心なしか歓迎ムードに満ちていた。ご飯も布団も楽しみだな、なんて皆でぞろぞろロビーに向かったことこ、突然、照明が消えた。真っ暗になった。私たちだけでなく、ほかにも宿泊者がいるなかで。

よく見ると、ロビー真中に「0」。すかさずFMラジオの電源を入れた。音楽と平沢の声が聞こえた。中心では和服を着たSP-2(女性が男性の体を経て女性に戻った方々)のヘレンさんが、優雅に、威厳をもって、所作も見事に舞っていた。隊員みんなが釘付けだった。そして楽曲の途中で、ラジオ越しに語っていた平沢が、「私はここだ」と静かに言い、上階にスポットライトが当たった。吹き抜けになった二階から、平沢がギターを弾いていた。少し遠かったが、いつもの平沢進がいた。私は、思い切って海外イベントに申し込んでよかったと感動した。値段以上のサービスを受け取ったのではないかと感激したが、まだ半日なのだ。半日しかたっておらず、それでこの演出、ようやく平沢劇場が開幕したのだと感慨もひとしおだった。

室内でも気を抜くな!

割り当てられた部屋に入れば、そこはオリエンタルな雰囲気に溢れていた。テーブルには愛らしい花や果実が飾ってあり、シーツも風呂場も清潔で、とても心地よかった。さあ、そろそろここでまったりと──と普通は考えるが、そうは問屋が卸さない。ここからが本番なのだった。平沢進海外イベントお馴染みの、室内総チェックが開始となる。毎回、ほぼ必ず、宿泊先では暗号文が隠されていた。もしかしたら例外に当たるのでは?と訝しんでも、一通りやっておかなくてはならない。なぜなら、その暗号文が次のイベントに繋がっていく可能性が高いからだ。

案の定、文書はトイレにあった。ほらみろ。言わんこっちゃない。私は友達に、勝ち誇ったように告げた。平沢は常に仕掛けてくる、用心に越したことはないないんだ、とまるで野生動物を扱うような表現をしたような気がする。

暗号には、「夜8時45分、ロビーに来てね(意訳)」とあり、しばらくして班の方も見つけてなかったらと念の為に伝えに来た。私たちは、ほんのわずかな休息を取り、次なる行動に移った。

女性であり男性からのメッセージ

ロビー前、不思議な方がいた。

半分男性、半分女性のメイクと衣装、手にはニコニコマークとメソメソマークのイラストに、WARNINGと書かれた紙、声は発さず、何事かを訴えていた。どちらかがWarning、つまり信じるなといいたげな動作だったが、当然のごとく「あ、正解はこっちね!」と察する暇もなく車に乗って去ってしまった。ニコニコかメソメソか、普通ならばニコニコが善良そうだが、これは何度も重ねるが平沢のステージ、一筋縄ではいかないのだ。そもそも、そのニコニコとメソメソは何?からはじまるくらいなのだから。

ショーの最中に走る緊張

そのままロビーに集合した隊員達は、バスに乗ってサイモン・キャバレーへと。いわゆるニューハーフさん達が歌い踊るお店だ。あの、室内に隠されたメッセージを見なかったら、あるいは知らなかったら、集合できず、サイモンにも来られなかった。こういう不親切さが平沢らしいと笑ってしまいそうになった。ある意味、信頼されているのだ。お前たち、どうせチェックしてるのだろう、と。

劇場内は想像していたより広く、観光客らしき方々ももちろんいた。そこへ平沢ファン達が観劇にやってきたのだから、なにも知らない人には何事かという騒ぎだ。もちろん、我々は大人しく礼儀正しくあったが、ほぼ女性ばかりの集団がどっと現れたら、驚かれても致し方ない。

とはいえ、ショーは本当に華やかだった。実はこのあとの出来事で、私はすっかりショーの内容を覚えていないのだが、とにかく美しかったことは覚えている。これは平沢からの贈り物なんだ、なんて感激していたくらいだ。

しかし、それは突然に起こった。華麗な衣装の美女が、手に「0」の団扇のようなものを持っていたのだ。こんな時に。こんな場所で。演目のさなか。隊員達は慌ててラジオを耳に装着した。私も同じく音声に聞き入った。いったい、なんてことをしてくれるんだ。壇上で、まさかアレを見るとは、と焦った。ラジオを持ってきて良かったと心から安堵した。

さらには、隊員のひとりが選ばれて、演者さんなら紙を手渡された。「BEACH」と書いてあったと、のちのち知った。なんなんだ。つい声に出してしまったほど、サイモンでの一件は強烈だった。

すれ違う平沢

最後、お見送りのように劇場入口に並ぶSP-2のみなさんに、チップを渡したり、写真を撮るものがいたりと、和気あいあいしていたのだが、ここでまた、とんでもない光景を見ることになる。ラジオから、こんな声が聞こえた。「よくご覧なさい。あの男がいます。周囲をよく見て(意訳)」。なんと、キャバレー前の道路を、トゥクトゥクに乗った平沢が通り過ぎていったのだ。

こうやって記憶を辿っている私だが、なにがなんだかさっぱりだ。すました顔で、手を振るわけでもなく、物憂げに、すっと眼前を過ぎていく平沢進。しかも一回、帰ってきてまた同じポーズで去る平沢進。面白すぎた。のちに団長に聞いたところ、なかなか隊員が平沢に気づかず、数往復ほどしたらしい。やはり面白すぎた。

そして一日が終わる

と、ここまでが万国点検隊2007の初日である。なるべく簡素に、おおまかなことだけを綴っているが、盛りだくさんすぎて三日間を丸ごと書くと、長くなりそうだ。とりあえずここでひとつの区切りとしたい。

実際は、細々したことがあったり、私の記憶が抜け落ちてることも多々ある。元々、平沢は暗喩と隠喩ばかりで、この人はなにをのたまっているのか、と翻訳(?)するのが一苦労で、右から左へと流れていったことも少なくない。まあ、ほとんどが「正しくルートを進み、正しく答えにたどり着け」となってしまうわけだが。

 

ちなみに、空港で箱を持っていたのは、通訳のJohさんだ。とても可愛らしかった。優しくて、穏やかで、プーケット珍道中でずっと頼もしい味方だった。頭のてっぺんからつま先まで愛らしいJohさんに、私は夢中になり、暇さえあれば姿を追っていた。ちょいちょい、私は旅の目的を忘れていた。

 

「気をつけなさい。一人は物事をわかりにくくし、もう一人はあなたをできるだけ早く”ペアード・スーン」に導こうとしています。あなたは試されているのです。」

そのメッセージ通り、私たちは異国で約3日間、試され続けた。その記録なのである。

この海外イベントの様子は、公式よりDVDとして販売されている。平沢進視点のため、あるいはイベント参加していないため、なにをしているのか分からない点は多々あるだろうが、我々が苦戦している真っ最中に、平沢進も奮闘していたのだな、と考えつつ観ると面白いかもしれない。

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