平沢ライブのススメ「LIMBO-54」DVD

平沢進のライブには、「ノンタラ」と「インタラ」がある。
なんのこっちゃ、と思われるかもしれないが、ノンタラとは「インタラクティブライブではない」歌い奏でる一般的なライブ、インタラとは「インラタクティブ=双方向ライブ」という意味の通り観客とで協力しながら仕上げていくライブだ。

インタラには、何度読んでもよく分からない物語があり、なにひとつヒントのない選択肢があり、思いがけないバッドエンドもある。
想像してみて欲しい。自分たちが選び、自分たちが動いたことで、演奏楽曲や結末が変わる、そんなライブがつまらないはずがないのだ。わくわくするに決まっている。

このインタラ方式のライブでやることは決まっている。現地勢は分岐地点で正しいルートを選び、時には求められる使命を果たす。ネット勢は時間内に特定の場で目標を超える。ああだこうだと、平沢が小難しいような、含蓄がありそうな話を挟み込んでくるが、基本、「課題をやりとげろ」の一言に尽きる。極めて単純だ。

例えば「YES」か「NO」かを観客が決める時、ステージにある半透明なスクリーンの指示に従い、自分が進みたい方に大声を出す。マイクで拾われた音は測定され、より声援のあった方へと判定、流れていく。しかし、まるで当たり前かのように手がかりがない。我々は、探りながら、別日の情報を得ながら、おそよ3~4ほどある分かれ道を渡り歩く。「成る」瞬間を追う。

ネットでは、特設サイトが限定で開かれ、ひたすら作業に没入する。橋をかける為の石切をしたり、仮想の町を飛び回ったり、特定の画像をマップから得たり、ライブ毎にやることは様々だ。これも、手引きなどないため、試行錯誤の繰り返しとなる。掲示板を同時に開いての、現状確認や報告もある。とても忙しない。参加者たちは当然、ベストエンディングを迎えたいし、平沢本人も「成る」ことを願っている。ライブというより、そこはもはやバトルフィールドなのだ。

さて、そんな私が推したいライブDVD、2003の「LIMBO-54」だ。どのライブもエキサイティングだが、なぜLIMBO-54なのか理由はというと、ひとつは私が大好きだからだ。何事も、まずこれが一番というものをお出しすべきだ。平沢の声の調子は絶好調、喉からCD音源と呼ばれた、いやCD以上の歌声をぜひ聞いて欲しいのだ。
またひとつはテーマ。今の世情にも通ずる、人類が世界に責任を負えるのか、争い殺し合うなかで、今こそ取り戻さなければならないものはなにか、を平沢節で語っていると、烏滸がましくも私はそう受け止めている。
最後は、若かりし頃(といってもアラフィフだが)の平沢のカッコ良さを知って欲しいためだ。40代、50代の平沢はことさら魅力的だった。現在も素敵だが、当時の私は、「こんな人と同じ時代に産まれてよかった」と出生に感謝したほどだ。おかげで、理想はとんでもなく高くなり、「それ、平沢の他にいないじゃん」と友人に苦笑された過去がある。

説明はともあれ。「LIMBO-54」の冒頭で語られるストーリーを要約する。

ナノ重複に間に合わなかったヒラサワ。世界は楽園のように再生されたが、ただひとつの違いがある。『人類がいない』。ナノ重複の時、誰一人欠けてはいけなかったのに、ヒラサワがいなかったからだ。もう一度やりたいというヒラサワと、88分だけ戻せるという平沢(語り手) 。しかし、そうなるともう一人のヒラサワがいることになり、つまり、ヒラサワが3人。ヒラサワA(演者)はヒラサワBより早く、星が失った108のサインズ(=LIMBO)を集め、再びナノ重複を行うため、観客とネット参加者(在宅オーディエンス=ダンサー)たちと、LIMBO-54を呼ぶための、しるしと共鳴台を探すのだった。

かなりざっくりと、私の解釈を過分に加え、おおよそを訳すとこうなる。「なに言ってるんだ、この人?」と訝しむかもしれない。安心して欲しい。長年のファンである私も、毎回、「なに言ってるの、この人」と思いながら挑んでいる。平沢ワールドは、難解そうで、明快な一面がある。楽しめばいいのだ。乗っかればいいのだ。解釈はいくらでもあっていいのだ。そこに正解はない。全員が合格だ。平沢は、すべてを良しとしてくれる。

そんな「LIMBO-54」、開幕の設定(?)ののち、88分を戻すため、歓声が必要だ、と会場全体が叫ぶ。半透明なスクリーンには、近未来的なかたちの「可逆時計」が映され、少しずつ過去へと時間を戻す。この場面がとても好きだ。出だしからテンションがあがるシーンだ。
さらに、なぜかステージを平沢が自転車で駆け抜ける。二度も。もう笑うしかない演出だ。ちなみに平沢進の自転車はリカンベント。見慣れないと、奇妙な形をしている。

そして、荘厳な曲が続き、4曲目、スクリーンの下から上へとハンドルネームが次々と登場する。これは、その日、その時間に、リアルタイムでネットに接続し参加してる在オ(在宅オーディエンス)だ。名前も位置も任意入力のため、所在地が「負けんな頑張れ!!」「今日こそは!」なんてものもある。私は、会場でこのネット参戦者のお名前がずらりと並ぶ画面で、いつも涙ぐんでしまう。インターネット参加は、それはそれで大変なことをさせられるのだが、現地で見ると頼りがいのある存在に感じるのだ。同士がこんなにいる、と胸がいっぱいになるのだ。

冒頭の繰り返しになってしまうが、インタラは平沢と観客とネット参加者で作る。変な話だが、平沢進がベストエンディングにたどり着くことを目指しても、集ったファン達の動向でそこに行くことが出来ないこともある。というか、なんの情報もない初日はもちろん、途中であっても、バッドエンドになることばかりだった。いつも、最終日ギリギリに「成る」。これは、別日に参戦した方々が掲示板などで経緯や結果を皆に伝え、またそこで攻略法を検討するからだ。DVDでは、ルート選択の時に、やけに統制がとれているな、と歓声の偏りが顕著だが、それは最終日までに研究しつくして次へ、次へと繋いだ結果なのだ。

ネットに関しても同じである。映像でも説明があるが、ステージに設置された望遠鏡は、ネット参加者たちが動かしている。会場参加者らが得た共鳴台に乗せるための「しるし」を探しているため、望遠鏡はちょこちょこ作動している。私も前日など「ダンサー」になったが、面倒なことこの上ない作業のうえ、ようやくたどり着いた先で妙な質問をされて、答えを間違えたらしく、失敗した。挙句、「LIMBO-DANCER」としてLIMBO-ROOMに送られた。訳が分からない。最終地点は一人しか立てないため、掲示板でのやり取りは活発だった。必要な「しるし」は4つ。重複は避けなければならない。DVDにはダンサー作業場の画像もあるが、きっと「なにこれ?」となるだろう。仮想CITYからCITYへジャンプし、試験室にたどり着けばいいだけ、と簡単そうだが、これがもうクリックできる箇所が多すぎて難儀だったのだ。平沢進のライブは早い時期からインターネット配信があったが、そんなもの構ってられない、と本末転倒になるほどだった。

まだこの頃は、たしか会場で有志がちらしを配っていたような記憶がある。「今日は、左・右・右に行ってね」と、要は指南書だ。前述したように、蓄積した経験を元に、おそらくこれが正規ルート、という推理を、小粋なチラシにして渡してくれ、託してくれた。
一見すると、平沢はオーディエンスたちに難題を吹っかけてくる厄介な人だが、実際は違う。ライブを成功させるために、だれよりも苦心しているのが、他でもない平沢だからだ。「完全な成功」こそが、オーディエンスたちの悲願であり、平沢への応えなのだ。

まあ、それでも参じても観るにしても、なにも難しいことはない。必要な解説はスクリーンに提示される。考察してもしなくてもライブは進む。個人的な見所は、歌う平沢がリズムを取るためとんとん片足を踏んでいる様子だ。可愛い。高音を出すときに少し仰け反るのも可愛い。ギターを弾く指先が綺麗。ファンなんて、こんなことまで愛してしまう。
平沢進は、どこから入ってもいいミュージシャンなのではないかと考えている。平沢進は平沢進唯一の世界観と歌唱力と独特さがあるため、これが名曲、というのがおそらくない。どれも違って、どれもいい。かろうじて、知られた曲かそうでないか、くらいだ。本人が「ステルス・メジャー」とのたまうほどなのだ、いつの間にか耳にしていた曲もある可能性だってある。

話を戻そう。
結局、「LIMBO-54」とはなんだったのか。よければ、その意味を、意義を、DVDで確かめてもらえたら、と思う。それを呼び寄せるために、2003年のオーディエンス達は悪戦苦闘した。そして心に深く刻んだ。私は会場で、スクリーンに表示されていく一文一文に号泣した。それほどに、感情を揺さぶるラストだった。
内容も面白く、改めて述べるがオススメだ。会場の一体感、緊張感、発光物を戸惑いながらリレーするオーディエンスの姿、様々と変わるスクリーン映像、なにより平沢進の美声と美しい音楽。そこに展開する摩訶不思議な空間。楽曲を知らなくても、謎だらけでも、物語があり、やることがあるため、インタラは雰囲気を堪能するに相応しいのではないか、と私は思っている。
公式サイトのオンラインショップで7700円。お値段は、少し高めかもしれないが、ボーナスステージなども収録してある。むしろまだ昔のライブDVDが買えることがありがたいと、嬉しいオーディエンスの一人、私なのである。

余談。ボーナスステージをDVDで確認した私は、あまりにあまりな仕掛けがあったことに「なんだよ、それ!」と驚いた。もしうまくいかなくても大丈夫だよ、という平沢の配慮だったのだろう。それはまあ、ライブが途中で終わる(さらに前のライブではあった…)とならないような工夫でもあったかもしれない。が……。
本当にブラックジョーク好きだよね、平沢!!

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