田舎と車とスキル

田舎住みは基本、車は一家に一台ではなく一人に一台である。バスやタクシーで充分?それは田舎とは言わん。そして乗るからには、ある程度自分でできないといけない…と言うより詰む。

大昔の冬のこと。その日は家から車で1時間弱の街にあるライブハウスのイベントに参加した後、ゆっくりご飯を食べて帰る流れだった。

充実した時間を過ごし、ヘドバンしすぎてやや痛い首と重い体を抱えつつ帰路へ。天気予報では自宅近辺は雪。真夜中の峠越えが必須な山の上に帰るため、物販で買ったばかりのCDをかけながら己を奮い立たせ出発。

峠中腹まではスイスイ行けたが、途中から路面の色味が怪しいのと道路の端の陰に雪が見え始め、早めにチェーンを巻く。実はこの峠がわかりやすい気候の境目で、判断を間違えると酷い目に遭う。路面の色味が違うのは、アイスバーンの中でも厄介なブラックアイスバーンになりかけていたから。スタッドレスは雪があればまだ何とかなるが、氷はあまり効かない。峠の怪談に加わりたくなければ、さっさとチェーンを巻くのが一番なのだ。

連続するきついカーブもじんわりやり過ごし、ようやく峠の出口付近に来た!と思っていたら、少し前に車が。進んで…ない。んー?と思って近付くと、タクシーが停まっている。故障かと思い、車を降りて声をかけようとした。すると、ライトが雪で乱反射して気付かなかったがもう一台前にいる。そしてその車を後ろから押してるタクシーの運転手。訊けば、その車は下から何とか登ってきたものの、峠のてっぺんの坂を登りきれず立ち往生していたと。しかも、チェーンどころかノーマルタイヤだと。

マジか。死ぬぞ。よく崖からダイブせんかったな…

仕方ないので自分も一緒に押すが、キュルキュル空転する音と手応えしか無い。車のおっちゃんは顔面蒼白。こっちも冷えて同じくらいに。というか、たとえここを越えたとして、こんな状態の車とおっさんでこの先どうにかなるわけない。あかん。そして声を上げる。

「これはもう、JAF呼ぶしかないんやないですかね…」

電話であの青き救世主を呼ぶ他無い。しかし、おっちゃん「ここ、わしの電波とどかん…」とか言う。マジか。重ね重ねのマジか。何しに来たんや。どうしようもないので、自分の携帯を貸した。そして何故かJAFに怒り気味に急かす感じで、唾飛ばしながら依頼するおっちゃん。何なんやもう。はよ返してくれ。

取り敢えず来てくれる算段がついたので、このパーティーは約20分ほどで解散した。車に戻るとラストの曲がかかっていたが、自分はまだお家に帰れてない。それぞれの無事の帰宅を祈りつつ、峠のドライブイン自販機で温かいミルクティーを買い、かじかんでこわばる手を弛めた。

田舎に来るなら、最低限天気予報チェックと天候による規制の確認、最低限より少し余裕くらいの装備は自分で何とかする。自然は優しくない。

今回の東京の雪のニュースで思い出したものです。

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