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「ヒーロー(あるいはアンチヒーロー)」の三毛縞斑
ある程度、あんさんぶるスターズをやってきたオタクなら、三毛縞斑が元「流星隊」だった、というのは前提知識にあるだろう。しかし、今の彼から流星隊に通ずる英雄性を見受けることは難しい。どちらかというと、自分勝手でアウトローな悪役の方が近い。しかし、三毛縞斑がヒーローに憧れていたこと、一時は正しくヒーローだったことは幾度となく描写されている。
「ぼくたちは、あのひとのぶんの『ゆめ』と『せいぎ』もかかえてたたかってるんですから!」
(第一部/第五章「一番星/204話Caricature」にて、深海奏汰の発言)
「三毛縞さんのように、おまえたちに倒されることで正義を為す怪獣みたいにもなれないかと思っていたが」
(「変身!星々を繋ぐコメットショウ」にて、守沢千秋の発言)
「(どこにでもいる男の子として、TVのなかのヒーローに憧れて――変身ポーズを真似していたあのころを)」
(「新参!目覚めの暗夜行路」にて、三毛縞斑の発言)
彼はヒーローだった。それは単に昔「流星隊」に所属していたから、ではない。詳しい説明をすると3年近く語ってしまうので詳細は省くが、流星隊の過去ストーリー「追憶*流星の篝火」では幼馴染である深海奏汰を助けるために、アイドルになりたいという夢まで捨てる覚悟で手を差し伸べている。というか、彼は今でも潔癖なまでの正義を追い求めるところがあり、自分の中の正義を為すために悪事を為す、「アンチヒーロー(FGO属性で言うところの「秩序/悪」)」とも言える。
それが分かりやすく押し出されたのが三毛縞斑と桜河こはくが組んでいた臨時にユニット「Double Face」である。「Double Face」は正義では裁けない悪を悪でもって裁く、というコンセプトで活動していた臨時ユニットだ。「Double Face」は復讐の代理人である。司法や道徳では裁けない悪人を私刑で裁く。私は正直、こちらの方がどっちつかずの三毛縞斑”らしさ”を感じてしまう。
三毛縞斑は正義の人だが、守沢千秋のように善良でもない。そのため、旧革命時に五奇人側だった彼は今でも、分かりやすく天祥院英智と蓮巳敬人を恨んでいるし、そのことを隠そうともしない。むしろ弱ったところ狙って叩き潰す勢いで恨んでいる。本来、復讐は何も生まないし彼は聡明なのでそれも分かっていそうだが、「単なる暇つぶし」で「紅月」を失脚させようとした(cf.「躍進!夜明けを告げる維新ライブ」)程度には恨んでいる。三毛縞斑は頑丈で強すぎるから、復讐心を持ちながらでも普通に生き続けられるし、笑っていられる。アンガーマネジメントが全く効かない稀有な例でもある。
三毛縞斑が怒るのは自分が侵害された時ではない、「自分が大切だと思っている人」が侵害された時である。彼は他人のために怒る程度には正義の人だ。ただ、やり過ぎるし、その義憤に酔っているところも少なからずある。彼はそれも自覚してるから、「悪人」と自称するし、自分は悪に手を出してしまったから二度と正義の味方を名乗る資格がないとまで言い切っている(cf.第二部/第三章「シークレットサービス」)。守沢千秋であれば、そういう三毛縞斑の行為さえ同情し、理解しようとし、認めてくれるだろう(cf.「追憶*流星の篝火」、第二部/第二章「サブマリン」)。三毛縞斑は、彼自身の行動を「悪」と認めてしまった時点で、正義の人にはなれないのだ。「正義」の真の強さは現実のバランス感覚を失わずに、どれだけ純粋に理想を信じて生きていけるかである。守沢千秋にはそのバランス能力があるし、どんなことがあっても理想を信じ続ける強さがある。そこが三毛縞斑が守沢千秋になれなかった一番の理由であり、三毛縞斑が「正義の味方の贋作」で、守沢千秋が「正義の味方」であり続ける所以なのである。
ところで、彼が流星隊の衣装を纏った姿は、この記事の冒頭に示したスチルしかないのだが、そこでは「流星パープル」を名乗って紫色の衣装を着ている。奇しくも、「流星レッド」の守沢千秋と「流星ブルー」の深海奏汰のメンバーカラーを混ぜた「紫色」である。彼の「どっちつかずさ」――もっと言うと「まだら」な部分について、しつこいくらいに描写されているのだ。次回はそんな三毛縞斑の不明瞭さについて語ろうと思う。
(次回記事に続く)
次回→ 三毛縞斑という男③(完)
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